男性型脱毛症 (AGA) は、男性だけでなく、女性でも、最も頻度の多い脱毛症の原因です。
男性型脱毛症とは、男性ホルモンが原因になって起こる脱毛症という意味です。
この章では、男性と女性の男性型脱毛症(AGA)(パターン脱毛)の、基礎的研究と治療に関する最新の研究成果について、お話ししましょう。
この記事のトピックは、AGAの病因、遺伝的要因、男性ホルモン(アンドロゲン)、5アルファ-還元酵素(5α-レダクターゼ)、ジヒドロテストステロン(DHT)、および男性ホルモン受容体、などに関する最近の知識を含んでいます。
読者の皆様が、この章で、AGAに関する基礎的研究の、最新の知識を得られるように、解説してみたいと思います。
男性の薄毛の診断は、容易です。前頭部と頭頂部の薄毛の状態をみれば、簡単に、診断することができます。
それに対して、女性の薄毛の診断は、とてもむつかしいです。女性の薄毛には、さまざまな要因が関係している可能性があります。女性の薄毛の原因を診断して、その治療法を見つけるのは、容易ではありません。高度な医学的知識と、いろいろな専門的な検査が、必要になります。
女性の薄毛に関しては、別の章で、詳しく解説することにいたします。
男性型脱毛症(AGA)の薬物治療
フィナステリドとミノキシジル;はじめに
男性型脱毛症(AGA)は、男性でも女性でも、いくつかの典型的な形の薄毛状態になる特徴があることから、別名、「パターン脱毛」とも呼ばれています。
とくに男性では、脱毛の典型的なパターンになるので、それだけでAGAと容易に診断できるくらいです。
男性と女性AGAにみられる薄毛の特徴は、「頭髪の進行性の細毛化(ミニチュア化)」、「終毛(正常の太さの髪)の数の減少」、および「頭髪の直径の大小の不均一性」です。
遺伝的にプログラムされた、毛包の細毛化の正確なメカニズムは、まだ十分には解明されていません。
ジヒドロテストステロン(DHT)は、AGAで、正常の太さの終毛が、細くなって細毛化することの、重要な原因になっています。
AGAは、「非瘢痕性の組織学的変化によって引き起こされる脱毛症の変化」と定義されます。
「非瘢痕性の変化」ということは、つまり、AGAの薄毛は、適切に治療されれば、可逆的であり、治る可能性がある、ということを意味しています。
AGAが原因の薄毛の治療では、フィナステリドとミノキシジルが、医学的データによって有効性が裏図けられた、主要な2剤です。
これら2剤は、作用機序が違うので、併用することにより、相乗効果が得られます。
その意味で、フィナステリドとミノキシジルの併用療法は、現在の医学では、AGAによる薄毛治療の、ゴールドスタンダードになっています。
カリウム・チャンネル開口薬
ミノキシジル・成長期誘導
ミノキシジルは、カリウム・チャンネル開口薬です。育毛効果に関する、ミノキシジルの正確な作用機序は、まだ完全には解明されていません。
ミノキシジルの主な効果の1つは、AGA患者の毛包細胞で、毛周期の成長期を長くする、成長期誘導効果です。
AGAにより毛周期の成長期が短縮すると、もともと4~6年間あった成長期が、数ケ月間にまで短くなります。そうなると、頭髪が太く長い髪に成長する前に抜けてしまうので、細くて短い毛ばかりの薄毛の状態(AGA)になります。
この短縮した成長期が、少し長くなると、頭髪が、より太く、より長く、伸びる機会が増えることになります。
ミノキシジルの作用機序は、男性ホルモンと関係ありません。つまり、ミノキシジルは、男性型脱毛症のほかにも、びまん性の脱毛症や、限局性の脱毛症などの、非瘢痕性の脱毛症の治療一般にも、効果が期待できます。
しかし、頭髪の濃さを増すミノキシジルの効果には、個人差があります。
ミノキシジルは、ある患者さんでは、他の患者よりも、毛髪の直径を、ずっと太くして、頭髪を濃くします。
他方では、ミノキシジルが、頭髪の直径に、明らかな変化を起こさず、頭髪が濃くならない患者さんもいます。
この個人差の理由は何でしょうか?
これらの個人差は、どこから来るのでしょうか?