テストステロン・シグナル伝達経路
DHT-アンドロゲン受容体複合体
DHTとアンドロゲン受容体の複合体は、とても安定しており、毛包細胞の内部で、テストステロンとアンドロゲン受容体の複合体よりも、長く持続するため、ジヒドロテストステロン(DHT)の効果は、テストステロンの効果よりも強く出現します。
DHT-アンドロゲン受容体複合体は、顔面および体の毛の成長・生え際のM字部分の頭髪の後退・および外性器の成熟を含む、男性の思春期の性的成熟における事象の、ほとんどすべての症状を、発症します。
アンドロゲン受容体の分布は、頭皮の領域によって異なっています。
頭髪の毛包におけるアンドロゲン受容体の分布レベルは、男性型脱毛症の男性では、後頭部の薄毛でない領域に比べて、前頭部の薄毛領域のほうが30%多いというデータがあります。
テストステロンに反応する、毛包の標的部位は、毛乳頭細胞です。
アンドロゲンとアンドロゲン受容体との複合体は、細胞分裂を抑制します。さらに、毛乳頭細胞から、成長因子が分泌されるのを抑制します。その結果、上皮細胞の増殖が阻害されます。
テストステロンの血中濃度が成人レベルまで増加すると、それは脱毛領域の感受性のある毛乳頭細胞に作用し、脱毛の遺伝的プログラムを開始して、薄毛を促進させます。
アンドロゲン受容体タンパク質
5α-還元酵素・アロマターゼ・およびアンドロゲン受容体タンパク質の濃度を含む、細胞内アンドロゲン代謝は、AGAにおけるホルモン因子として重要な役割を果たしています。
アンドロゲン受容体タンパク質(ARP)は、頭髪の毛包の外毛根鞘、および毛乳頭の線維芽細胞に、豊富に含まれています。
アンドロゲン受容体の量は、男性および女性の、薄毛にならない後頭部領域よりも、前頭部の薄毛領域のほうが、30%多かった、という結果が報告されています。
そして、アンドロゲン受容体の総量は、男性のほうが、女性よりも、40%多い、という結果でした。
ARPへのアンドロゲンの結合は、間葉系の毛乳頭細胞と、上皮系の毛包細胞との間の、相互作用を促進します。その結果、AGAでは、頭髪が細くなって、終毛からうぶ毛に変わる、細毛化が起こります。
他方では、同じメカニズムが、思春期の男性の、ひげと口ひげの毛を、太くします。
女性型AGAの症状は、ときに、一部の特定の患者では、アンドロゲン受容体の関与なしに発症する場合もあります。
プロゲステロン受容体
妊娠中には、プロゲステロンが増加して、毛包は成長期に保たれるので、妊娠中には特に、髪が太くて濃くなります。
出産後や更年期後に、血中のプロゲステロン値が低下すると、脱毛になります。
更年期女性のためのホルモン補充療法は、脱毛の治療にも有益です。
頭皮組織に対するプロゲステロンの効果は、プロゲステロン受容体によって媒介されます。このプロゲステロン受容体は、リガンド依存性転写因子の核内受容体ファミリーの一員です。